運転資本のすべて(営業キャッシュフローとの関係は?)

Feb 4 / ザ・モデラズ
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今回は、正味運転資本とも呼ばれる、純運転資本について学びたいと思います。英語ではWorking Capitalですね。このパートは、私自分も説明しづらい部分ですし、対面授業でも受講生の方が最も理解しづらいと感じるところです。そのため、対面授業では集中力が高い序盤に、この内容を説明しようとしています。皆さんもしっかりと集中してついてきてください。まずは、簡単に純運転資本の定義から見ていきましょう。

おそらく、大学の会計の授業で学んだ純運転資本の定義は、流動資産 minus 流動負債でしょう。流動資産は1年以内に現金化できる資産を意味し、流動負債は1年以内に返済すべき負債です。そのため、基本的にはWorking Capitalがプラスであることが望ましいとされており、本来は企業の短期返済能力を評価する指標として使用されます。したがって、Working Capitalがプラスの企業は良い企業とされ、マイナスの場合は短期の返済能力が疑わしいと思われます。ここで1つクイズです。純運転資本が多いということは必ず良いことでしょうか?極端な例として、Working Capitalがプラス数千億や数兆円である企業は本当に良い企業でしょうか?これからは、こうした観点からも考えてみる必要があります。

今後、企業価値評価もしくは投資の場面でWorking Capitalについて議論する際には、企業の営業キャッシュフローと関連した観点から行われる可能性が非常に高いです。結論から言うと、「企業の営業活動のためにどれだけの資金が拘束されるか」という観点から、Net Working Capitalを捉えるようになります。

右の図を使って説明しましょう。右の図は中国から服を安く仕入れて日本国内で高く販売するビジネスを図で表したものです。中国で在庫を購入すると、服を仕入れる際に現金が出ていきます。しかし、仕入れた服が国内ですぐに売れる訳ではありません。例えば、在庫の状態で20日間保管された後に、お客さんがクレジットカードで購入したと仮定します。この時点でも現金は手に入りません。売掛金として計上され、さらに10日がすぎたあとに現金が回収されるとすると、合計30日間が過ぎてやっと現金が手元に入ります。1000の原価で2000を稼いだので、ちゃんと利益は出ましたが、ビジネス側からすると、この30日間は1000の資金が拘束されることになります。このようなビジネスでの純運転資本は通常プラスであり、拘束される期間が長いビジネスほど、売上に対する純運転資本の割合が大きくなるでしょう。

このようなことは製造業や他の業界でも見られます。初期段階で資金が必要で、かつ、そのキャッシュが拘束されるため、「ビジネスを始めるには元手が必要だ」とよく言われるのです。代表的な例として、数百年前のヨーロッパの大航海時代を考えてみましょう。当時のヨーロッパ人たちはインドやアフリカで貿易をしていました。当時は、往復の時間や貿易品の販売から現金の回収までかなりの時間がかかり、投資家の役割が重要でした。

また、Working Capitalによる資金の一時的な拘束は、企業が投資を行う際のパターンと非常に似ているとも言えます。投資も運転資本と同様に、投資時点から回収までに相当な時間がかかるためです。もちろん、一般的にはWorking Capitalよりは現金の回収にかかる時間が長くなります。

反対に、営業活動を行う中で、先に現金が入る業界もあります。宿泊業が代表的な例です。ホテルに泊まる際、通常は予約や支払いを先に行い、実際の宿泊は後になります。そのため、宿泊業では純運転資本がむしろマイナスになることもあります。今皆さんが受けているこのThe Modellersも同じです。皆さんは授業を受ける前に支払いを済ませていますので、The Modellersも純運転資本はマイナスです。キャッシュフローの観点から見て、これは良いビジネスモデルと言えるでしょう。ただし、これはあくまでも特殊なケースであり、通常、運転資本はプラスで、営業を行うため先に資金が投下されることが一般的です。

次に、Financial Modeling 201やTechnical Interviewの後半で詳しく学ぶ、「Free Cash Flow」の概念について少しお話しします。DCFを行う際のFree Cash Flowとは、企業の営業活動および投資活動に必要な現金を差し引いた後に、投資家の手元に還元されるキャッシュフローのことです。そのため、Free Cash Flowの計算は営業利益から始まります。営業利益からスタートするということは、投資家も既に人件費やマーケティング、R&D費用などは差し引かれるものだと、捉えているということです。その後、taxを引きます。もちろん、taxは政府が取るものであり、投資家がどうにかできるものではないです。

さらに、投資家の取り分ではないものが2つあります。一つ目はCAPEXです。企業が成長し、ビジネスを維持するためには継続的な投資が必要です。これも投資家の取り分ではなく、企業に残さなければなりません。最後にWorking Capitalの増減です。企業が成長するためには、先ほど説明した通り、運転資本にも継続的にキャッシュが拘束される必要があります。こうして運転資本まで差し引いた後に、投資家に還元できるFree Cash Flowが算出されます。ちなみにですが、非現金性の費用である減価償却費は、一部再び加算されることがあります。これについては、201の講座でさらに詳しく説明します。ひとまず最終的な目標の一つがDCFのValuationをFree Cash Flowを使って行うことであり、重要なことは、そのFree Cash Flowの重要な要素であるWorking Capitalもしっかり見ていく必要があるということです。

それでは、Financial Modelingを行う際に、通常は成長中の企業をよくモデリングします。その場合、売上が右肩上がりで成長する企業のNet Working Capitalは共に増加するのでしょうか、それとも減少するのでしょうか?もちろん、一般的には売上が増加するにつれてNet Working Capitalも一緒に増加するのが普通です。売上が増えると、売掛金も増え、在庫も多く用意する必要が出てきますからね。もちろん、買掛金のような支払いも増えますが、通常、流動資産が流動負債よりも大きくなる傾向があります。しかし、純運転資本の増加はキャッシュフローの観点ではプラスの影響を与えるのでしょうか、それともマイナスの影響を与えるのでしょうか?会計に詳しい方ならすぐに答えられるかもしれませんが、少し難しい質問かもしれません。先ほど、成長する企業はそれだけ多くのキャッシュが拘束されると説明しました。つまり、Working Capitalの増加はキャッシュフローとは負の関係を持つことになります。例えば、Working Capitalが30から60に増加したということは、30だけさらに現金が投下されていると考えられます。同様に、60から120に増加した場合、その期間中に60の現金がさらに投下されたことになります。これがFree Cash Flowの計算式でもWorking Capitalを最後にマイナスで差し引く理由です。

もう考えるべき点は、純運転資本の定義についてです。実際、流動資産や流動負債の概念には営業活動に関連する項目もあれば、そうではない項目も多く含まれます。しかし、私たちが知りたいのは、営業活動に投下される資金についてです。従って、今後は営業活動に関連する項目のみを考え、投資資産や金融負債、現金、短期金融商品など、営業活動と関係が薄いと判断される項目は除かれます。これらは本来、流動資産や流動負債に含まれるものですが、営業活動に関連した項目のみを純運転資本に含めるのが、純運転資本の一般的な定義です。

スライドの図を見ていただくと、さらに極端に狭い意味では、売掛金、棚卸資産、買掛金の3つだけで見る場合もあります。こうした定義の違いがありますが、実務においては誰もそれをはっきり示すことはありません。また、実務で活動されているアナリストやバンカー、コンサルタントの方々も、この概念が明確に統一されていないことが多く、混乱する場合もあります。そのため、個人的にはモデリングを行う際に、最も丁寧な方法として「net working capital」と表記し、括弧で「operating」のように付け加えると良いと思います。また、今後様々な定義の純運転資本に出会う時には、「この人はこの定義でNet Working Capitalを使っているんだろうな」と理解しておけば良いでしょう。

最後に、これまで説明してきた内容をFinancial Modelでどのように組み込むかについてお話しします。まず、過去のdataをまとめる必要があります。そして、Working Capitalの項目を分析します。単に分析するのではなく、売上成長率や売上原価のGPM、販管費の% of Salesの指標など、特定の指標を用いて分析します。

運転資本の分析では、ほぼ99.9%がTurnoverという回転率と、Days Outstandingという回転日数の2つの指標が使われます。全ての回転率の計算式には通常、分子にsalesが入り、分母に貸借対照表の項目が入ります。例えば、Fixed Asset Turnover Ratioですと、分母にFixed Asset、分子にSalesが入ります。また、Total Asset Turnover Ratioなら、分母にTotal Asset、分子にSalesが入ります。ただし、残念ながら例外が2つあり、それが棚卸資産と買掛金のturnoverです。この2つのturnoverのみ、分子に売上原価が入ります。売掛金の場合は分子に売上高を入れます。

計算式自体は覚えれば良いですが、これらの指標にはどのような意味があるのでしょうか?例えば、1年間の売上が360で、この期間に平均的に90の売掛金があったとします。この場合、売掛金回転率が4と計算されますが、これは1年間に売掛金が4回分回ってきたことを意味します。実際には売掛金が生まれたり無くなったりするでしょうが、平均的には4回回転したということになります。では、回転率は高い方が良いのでしょうか、それとも低い方が良いのでしょうか?キャッシュフローの観点からは高い方が良いでしょう。売上が同じであれば、売掛金の残高が少ないということは、現金が早く回収されたことを意味しますので良いということです。逆に、買掛金回転率は低い方が良いでしょう。資金繰りに問題がなければ、支払いをできるだけ遅らせることがキャッシュフローの観点からは望ましいので、低い方が良いでしょう。

また、計算された回転率が4の場合、1年で4回分回転したということですが、その場合1回転に何日かかったのでしょうか?1回の回転に約90日ですよね。正確には365を4で割って91日かかるという意味です。「1年で4回、回転した」という表現と「1回の回転に91日かかった」という表現では、どちらの方が分かりやすいですか?私の経験からしますと、通常、後者の方がイメージしやすいです。そのため、回転率の概念が基本ではありますが、回転日数の指標も非常によく使われます。ちなみに、売掛金の回転日数は回転率と反対に短い方が望ましく、買掛金の回転日数は長い方が望ましいでしょう。

概念の説明は以上となります。これからExcelに移り、まずは過去のデータを整理します。過去のデータをまとめ、そのデータに基づいて回転率や回転日数の指標を使って分析を行います。また、その指標を元にmetricを推定します。最後に推定値に基づいて計算を行い、Working Capital Scheduleが完成されます。このWorking Capital Scheduleは、今まで説明したWorking Capitalの概念とその増減の方向性が理解できていれば、Financial Modelに組み込むことは難しくないと思います。Working Capitalについての説明は以上となります。それではExcelでお会いしましょう。

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