企業買収の裏にある“借金戦略”─LBOの基本とその破壊力

Oct 28 / ザ・モデラズ

レバレッジド・バイアウト(LBO)とは?

レバレッジド・バイアウト(Leveraged Buyout, LBO)は、企業を買収する際に資本とともに多額の借入金を活用する金融取引のことを指します。通常、買収対象企業の資産や買収企業の資産が借入金の担保として使用されます。これにより、買収者は資本を最小限に抑えつつ、借入金を活用して買収を進めることが可能になります。


LBOは、プライベート・エクイティ(Private Equity)の世界で非常に人気があり、投資家が企業を買収して価値を向上させた後に売却し、利益を得るための手法として広く利用されています。本記事では、LBOの仕組み、その構成要素、メリット、そして一般的な例について詳しく説明します。


LBOはどのように機能するのか?


LBOの基本的な考え方は、個人が住宅購入のために住宅ローンを利用するのに似ています。つまり、借入金を活用して企業を買収するプロセスです。その流れは以下のようになります:


1.買収資金の調達:買収を行う企業やPEファンドは、対象企業を買収するために金融機関や債券市場から借入金を調達します。


2.借入金の活用:借入金は買収金額の大部分を占め、通常、総買収費用の60〜90%に達します。残りの資金は買収企業の資本から拠出されます。


3.担保:買収対象企業の資産が借入金の担保として使用されます。つまり、借入金が返済されない場合、債権者はこれらの資産を差し押さえて売却する権利を持ちます。


4.所有権の取得と価値創造:買収が完了すると、買収者は通常、対象企業の再構築を行い、効率化を進めたり、コストを削減したり、収益性を向上させたりします。価値が向上した後、企業を売却または上場することで利益を実現します。


LBOの主要な要素


1.高いレバレッジ:LBOでは、買収資金の大部分が負債で調達されるため、資本構造が高度にレバレッジ化されます。目標は、借入金を活用して株主に対する収益を最大化することです。


2.キャッシュフローの重視:買収対象企業が生み出すキャッシュフローは、M&Aで発生した借入金を返済するために欠かせません。強力かつ安定したキャッシュフローを持つ企業はLBOに適しており、借入金の利息はそのキャッシュフローから支払われます。


3.出口戦略:LBOの重要な要素の一つは出口戦略です。PEファンドは通常、企業を3~7年保有した後に売却、IPOまたは合併を通じてエグジットします。この期間中に企業価値を向上させ、利益を得ることを目指します。


レバレッジド・バイアウトのメリット


1.高い資本収益率:買収者が多額の借入金を利用するため、成功したLBOは投資した資本に対して高い収益を提供する可能性があります。レバレッジを活用することで、株主は純粋な資本買収よりも高いリターンを達成できます。


2.税制上のメリット:LBOに使用される借入金の利息は一般的に税控除の対象となるため、課税所得を減らし、節税効果を得ることができます。この理由により、LBOは買収者にとって魅力的なオプションとなります。


3.運営の改善:PEファンドは買収した企業の運営効率を向上させることに注力します。事業を再編したり、コストを削減したり、運営を最適化したりすることで収益性を高めます。こうした運営改善は、企業全体の価値向上に寄与します。


レバレッジド・バイアウトのリスクと課題


1.財務リスク:LBOは多額の負債を伴うため、財務リスクが高まります。対象企業が利息支払いを賄える十分なキャッシュフローを生み出せない場合、財政的困難倒産に陥る可能性があります。


2.負債負担:LBOによる過剰な負債負担は、企業が成長の機会に投資したり、経済不況を乗り越えたりする能力を制限する可能性があります。負債返済の必要性が、戦略的な意思決定や柔軟性を制約することがあります。


3.市場状況:LBOはしばしば広範な市場状況に影響を受けます。金利の上昇や業界の低迷は負債返済をより困難にし、財務上の問題の可能性を高めることがあります。


レバレッジド・バイアウトの例


最も有名なLBOの1つは、1989年にKKRが行ったRJRナビスコ(RJR Nabisco)の買収です。この取引は250億ドル規模で、史上最大級のLBOとして知られています。KKRは主に負債を利用して買収を行い、RJRナビスコの資産を担保として使用しました。この取引は大きな注目を集め、その物語はバーバリアンズ・アット・ザ・ゲート(Barbarians at the Gate)という本で詳しく描かれています。

もう一つ注目すべき例は、2007年にブラックストーン・グループ(The Blackstone Group)が行ったヒルトン・ホテルズ(Hilton Hotels Corporation)の買収です。ブラックストーンはLBOを通じてヒルトンを買収し、その後運営を改善し事業を拡大しました。この買収は成功を収め、ヒルトンは2013年に上場し、ブラックストーンに多大な利益をもたらしました。


誰がLBOを実行するのか?


- プライベート・エクイティ:PEファンドは、LBOを行う最も一般的な買収者です。彼らはLBOを活用して過小評価されている、または業績不振の企業を買収し、価値を高めた後に売却することで利益を得ます。


- 経営陣買収(MBO):場合によっては、企業の経営陣チームがLBOを活用して会社を買収することがあります。これを経営陣買収(MBO)と呼び、既存の経営陣がPEファンドと協力して、株主から企業を買い取ります。


良いLBO候補の特徴は?


すべての企業がLBOに適しているわけではありません。理想的なLBO候補には以下の特徴があります:


1.安定したキャッシュフロー強力で予測可能なキャッシュフローを持つ企業は、負債を無理なく返済できるため、好まれます。


2.低い既存負債既存負債が少ない企業は、追加のレバレッジを利用しても過剰な財務リスクがないため、魅力的です。


3.運営効率化の機会コスト削減や運営効率化の余地がある企業はLBOの良い候補です。プライベート・エクイティファンドはリストラやコスト最適化を通じて価値を創出できます。


4.資産が豊富な企業多くの資産を保有する企業は、借入の担保として利用できるため、LBOにとってさらに魅力的です。


結論


レバレッジド・バイアウト(LBO)は、買収者が企業を大量の負債を活用して取得し、最終的に企業価値を高めて売却することで利益を得る強力な金融手法です。LBOは高い収益と税制上のメリットを提供する可能性がありますが、負債に大きく依存するため、相当な財務リスクも伴います。LBOの仕組みを理解することは、プライベート・エクイティ、企業金融、またはM&A(企業買収・合併)に関心を持つ人々にとって非常に重要です。LBOは、レバレッジがリスクとリターンの両方をどのように増幅するかを示す金融工学の興味深い側面の一つです。そのメリットとデメリットを理解することで、プライベート・エクイティと企業買収の世界に対する深い洞察を得ることができます。

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