成長か、配当かー企業戦略としての『配当リキャピタリゼーション』とは?
Dec 29
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ザ・モデラズ
配当リキャピタリゼーション(Dividend Recapitalization)とは?
配当リキャピタリゼーション、略して配当リキャップ(dividend recap)とも呼ばれるこの戦略はPEファンドや企業が会社を売却することなく、株主に現金を分配するために使用する金融戦略です。これは新たな負債を発行し、その収益を会社の所有者に特別配当金として支払うという仕組みです。この方法により、株主は会社を所有し続けながらも、会社の価値を引き出すことができます。この記事では、配当リキャピタリゼーションの仕組み、具体的なプロセス、そして企業やPEファンドがこの戦略を利用する理由について説明します。
配当リキャピタリゼーションはどのように機能するのですか?
配当リキャピタリゼーションは、企業の貸借対照表にレバレッジを追加することで機能します。以下は一般的なプロセスです:
1.新たな負債の発行:企業は金融機関からの融資を受けるか、債券を発行して新たな負債を調達します。この結果、企業のレバレッジ(負債比率)が増加します。
2.配当金の支払い:新たに調達した負債の収益は、特別配当金として株主に支払われます。通常、PEファンドや場合によっては経営陣や他の株主が対象となります。
3.レバレッジの増加:リキャピタリゼーション後、企業の負債水準は高くなりますが、所有者は株式を売却することなく多額の現金配当を受け取ることができます。
例えば、PEファンドが企業を所有しており、投資家に一部の価値を還元したいと考えた場合、企業に新たに1億ドルの負債を負わせることができます。企業はこの資金を使ってPEファンドに配当金を支払い、投資家は企業を売却することなく利益を実現することが可能となります。
企業が配当リキャピタリゼーションを利用する理由は何ですか?
配当リキャピタリゼーションは、特にPEファンドにとって、いくつかの戦略的な目的を達成する手段となります:
1.投資家への資本還元
配当リキャピタリゼーションを利用する主な理由の一つは、投資家に資本を還元することです。新たな負債を発行して配当金を支払うことで、PEファンドはポートフォリオ企業の価値を引き出しながらも、企業を売却する必要はありません。つまり、投資家に一定の流動性を提供しつつ、事業の支配権と所有権を引き続き保持することができます。
2.リスク管理
配当リキャップを通じて、PEファンドは投資リスクを軽減することができます。初期段階で配当金を支払うことで、初期投資額の一部を回収し、企業の価値が将来的に減少した場合でも、ある程度の収益を既に実現しているため、下方リスクを抑えることが可能です。
3.所有権維持の柔軟性
配当リキャピタリゼーションを利用することで、PEファンドの所有者は所有権を失うことなく価値を引き出すことができます。この柔軟性により、企業の成長を引き続きサポートし、さらなる運営改善の利益を享受しながら、将来的に収益性の高い出口戦略を追求することができます。これは「現在の収益」と「将来の成長余地」を両立する効果をもたらします。
4.所有権を維持しながら収益を実現
配当リキャピタリゼーションの大きな利点の一つは、株主が所有権を維持しながら収益を実現できることです。通常の売却では、現金を得るために株主が持ち分を手放す必要がありますが、配当リキャップを利用すれば、株主は企業の持ち分を保持したまま配当金を受け取ることが可能です。
配当リキャピタリゼーションの利点
- 即時の現金収益:配当リキャピタリゼーションは、所有権の持分を売却することなく、株主に即時の現金収益を提供します。
- 支配権の維持:現金を生み出すために持分を売却する代わりに負債を利用する場合、現在の所有者は企業に対する支配権を維持することができます。これは、所有者が売却や上場を検討する前にさらなる価値を実現できると信じている場合に特に有利です。
- 税制上のメリット:負債の利息費用は通常税控除の対象となるため、企業の課税所得を減少させ、税制上のメリットを提供する可能性があります。
配当リキャピタリゼーションのリスクと欠点
配当リキャピタリゼーションには多くの利点がありますが、いくつかの重要なリスクも伴います:
1.レバレッジ増加と財務リスク
新たな負債を負担することは、企業のレバレッジを増加させることを意味します。高いレバレッジは企業の財務リスクを高め、追加の負債は利息の支払いを通じて返済される必要があります。企業のキャッシュフローが利息の支払いを十分に賄えない場合、財務的な困難に直面し、最悪の場合、破産に至る可能性があります。
2.財務的柔軟性の低下
企業が大幅な新規負債を発行した後は、財務的な柔軟性が低下します。高い負債水準は、企業が成長イニシアティブ、買収、または運営上の必要性のために追加資金を調達することを困難にします。これにより、市場の変化に適応したり、新たな機会を追求する能力が制限される可能性があります。
3.信用格付けへの潜在的な影響
配当リキャピタリゼーションのために多額の負債を発行すると、企業の信用格付けに悪影響を及ぼす可能性があります。信用格付けが低下すれば、将来の借入コストが増加し、企業が有利な金融条件を確保することがより困難になる可能性があります。
配当リキャピタリゼーションの例
配当リキャピタリゼーションは、PEファンドが所有する企業で一般的に発生します。例えば、著名なペット用品小売業者であるペトコ(Petco)は、2010年に配当リキャップの対象となり、その際、PE所有者であるTPGとレナード・グリーン・パートナーズ(Leonard Green & Partners)が新たな負債を引き受け、それを利用して自分たちに配当金を支払いました。これにより、PEファンドは企業を引き続き所有しながらも、投資家に一部の資本を還元することができました。
もう一つの例として、ダンキン・ブランズ(Dunkin’ Brands)が挙げられます。ダンキンドーナツとバスキン・ロビンスの親会社であるダンキン・ブランズは、上場前の2010年に配当リキャピタリゼーションを実施し、PE所有者に対して5億ドルの配当金を支払うために負債を発行しました。これにより、所有者たちは当時の所有権を維持しながらも、企業価値を引き出すことができました。
結論
配当リキャピタリゼーションは、主にPEファンドが所有する企業で、所有権を手放さずに投資から価値を引き出すために使用される戦略です。新たな負債を発行することで、企業は株主に特別配当金を支払い、即時の資本還元を提供します。この戦略は流動性と支配権を維持する上で有利ですが、一方で高いレバレッジにより財務リスクが増大するという欠点もあります。
この戦略は、PE投資家が現金収益へのニーズと、企業内で価値を創出したいという意欲との間でバランスを取るのに役立ちます。しかし、レバレッジの増加は財務的な柔軟性を低下させ、場合によっては財務的困難に直面するリスクがあることを理解することが重要です。