“株価”がない企業をどう評価する?上場企業との違いを解説

Jun 17 / ザ・モデラズ

スタートアップや未上場企業の場合、企業価値評価(Valuation)はどのように行うのか?

非上場企業(Private Company)の企業価値評価は、市場価格の不在、限定的な財務情報、標準化されていない財務開示、低い流動性などの理由により、上場企業(Public Company)よりも評価が難しくなります。したがって、追加的な前提設定や調整作業、流動性ディスカウント(DLOM, Discount for Lack of Marketability)が必要となり、複雑な資本構造がバリュエーションをさらに複雑にする可能性があります。


主な評価の難点


  • 市場価格の不在:上場企業にはリアルタイムの株価がありますが、非上場企業にはそれがないため、内在価値法(Intrinsic Valuation)相対価値法(Relative Valuation)を用いる際に難しさが伴います。


  • データおよび会計基準の問題:非上場企業の財務諸表は上場企業に比べて情報が限られており、また上場企業とは異なる会計・税務基準を適用していることもあり、監査が実施されていない場合もあるため、調整作業が必要となる場合があります。


  • 流動性ディスカウント(DLOM):非上場企業の株式は市場で迅速に時価で売却することが困難なため、これに対する流動性ディスカウント(DLOM)を適用することが多くあります。


  • 資本構造および所有構造の複雑性:優先株、転換社債(Convertible Note)、アーンアウト条項(Earn-out)など、複雑な特徴を持つ証券が存在する可能性があり、追加的な価値配分の検討が必要となることがあります。


そのため、一般的な上場企業や成熟企業とは異なるアプローチの使用が推奨されます。同じ評価手法を異なる形で適用することもあれば、まったく新しい評価アプローチを用いることもあります。代表的な手法としては以下のようなものがあります:


1. マーケットアプローチ(Market Approach)– 類似企業/取引分析


非上場企業であっても、ビジネスモデル・成長段階・地域が類似した上場企業やM&A取引データを基に評価することが可能です。ただし、非上場企業の特性上、マルチプルの適用時にディスカウント(割引、Discount)が適用される場合があります(例:流動性ディスカウント 20〜30%)。


  - Trading Comps(類似企業比較法):上場されている類似企業のEV/Revenue、EV/EBITDA、P/Eなどのマルチプルを適用。
例:ARR(年間継続収益)100億円のSaaSスタートアップに対し、類似企業の平均EV/Sales倍率10倍を適用すれば、企業価値は1,000億円と算出されます。


  - Transaction Comps(取引事例比較法):最近の類似業種のM&A取引におけるマルチプルを適用。

例:あるVCが類似企業の5%の持分を50億円で取得した場合、その企業の実質的な企業価値は1,000億円と推定できます。こうした事例を基に、マルチプルを逆算して活用することができます。


2. インカムアプローチ(Income Approach)– DCFモデルなど


将来のキャッシュフローが予測可能なスタートアップの場合、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー、Discounted Cash Flow)モデルを活用して、将来のフリーキャッシュフロー(FCF、Free Cash Flow)を現在価値に割引する方法が適用されます。DCFは、WACCの設定やキャッシュフローの予測の困難さから、初期段階のスタートアップにはあまり用いられませんが、Series B〜C以降で収益性が明確になるタイミングでは信頼できるモデルとして使われます。なお、FCFがマイナスであっても(Negative FCF)、ターミナルバリュー(Terminal Value)の比重が大きいため、IRR(内部収益率)目標と併用して分析することもあります。


3. ベンチャーキャピタル法(VC Method)


初期スタートアップで最もよく使用される手法であり、Exit(イグジット)時点の企業価値をまず算出し、目標IRRを適用して現在価値を逆算します。


  - Step 1:Exit時の予想売上 or EBITDA × 市場マルチプル → Exit Value

  - Step 2:目標IRR(通常30〜50%)で割引

  - Step 3:現在の企業価値 = Exit Value / (1 + IRR)^年数


例:5年後のExit時点でEBITDAが50億円、EV/EBITDAマルチプルが20倍と予想されるならば、企業価値は1,000億円になります。その後、目標IRRを40%とした場合、現在価値は約237億円と算出されます。


4. Berkus法/スコアカード法(Scorecared Method)など定性的評価手法


非常に初期段階(Pre-seed, Seed)のスタートアップの場合、財務データだけでは評価が難しいため、以下のような定性的な基準が用いられます:


  - Berkus Method:アイデア、技術力、チーム、マーケット参入戦略、営業実現可能性などの項目ごとにスコアを与え、企業価値を評価。

  - スコアカード法(Scorecard Method):地域、業界、チーム経験などの要素を基準スタートアップと比較し、加重平均で調整。

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