財務諸表の“ウラ”を読む鍵、WACCが暴く企業の本当の顔

Nov 20 / ザ・モデラズ

加重平均資本コスト(WACC)とは?

加重平均資本コスト(WACC)は、企業全体の資本コストを示す財務指標であり、負債と資本の両方を含みます。これは、企業が事業運営のために資金を調達する際、借入(負債)や株式発行(資本)による資金調達に伴う平均的なコストを反映しています。


WACCは、企業が投資によって達成すべき最低収益率(ハードルレート)を表すため、重要な指標です。これは、企業が投資家、つまり負債保有者や資本提供者を満足させるために、投資から確保すべき収益率を意味し、投資のリスクを反映します。


WACCの仕組み


WACCは、企業の資本構成に基づき、負債と資本の比率に応じて各資本源のコスト(負債コストと資本コスト)を加重平均して計算されます。この計算には、資本コスト、負債コスト、そして資本構成比率が考慮されます。


WACCの公式は以下の通りです:


WACC = (E/V) * Re + (D/V) * Rd * (1 - Tc)


ここで:

- E = 資本の市場価値

- D = 負債の市場価値

- V = 総資本の価値 (E + D)

- Re = 資本コスト

- Rd = 負債コスト

- Tc = 法人税率


各構成要素の説明:


1.資本コスト (Re):
資本コストは、株主が要求する収益率を指します。株主は、企業に投資することでリスクを負うため、それに見合うリターンを求めます。このリターンは、資本資産価格モデル(CAPM)などのモデルを使用して計算されます。CAPMは、リスクフリーレート、市場リスクプレミアム、および企業のベータ値(市場に対するリスクの度合い)を使用して資本コストを推定します。

例:リスクフリーレートが3%、市場リスクプレミアムが5%、企業のベータ値が1.2の場合、資本コストは以下のように計算されます:

Re = リスクフリーレート + ベータ * 市場リスクプレミアム
Re = 3% + 1.2 * 5% = 9%

2.負債コスト (Rd):
負債コストは、企業が借り入れた資金に対して支払う必要のある実際のコストを指します。資本とは異なり、負債の利息費用は税控除の対象となるため、税引後の負債コストは低くなります。この税制上のメリットは、WACCの公式で (1 - Tc) という形で反映されます。

例:企業が利率6%の負債を保有しており、法人税率が30%の場合、税引後の負債コストは以下のように計算されます:
Rd * (1 - Tc) = 6% * (1 - 0.3) = 4.2%

3. 資本構成比率 (E/V および D/V):
WACCは、企業の資本構成における資本(E/V)と負債(D/V)の比率も考慮します。例えば、企業が60%の資本と40%の負債で資金を調達している場合、この比率が加重平均コストの計算に使用されます。


WACCの計算例


以下の情報を持つ企業を例に考えます:

- 資本コスト (Re) = 9%

- 負債コスト (Rd) = 6%

- 法人税率 (Tc) = 30%

- 資本の市場価値 (E) = $600,000

- 負債の市場価値 (D) = $400,000


まず、総資本の価値を計算します (V):

V = E + D = $600,000 + $400,000 = $1,000,000


次に、資本と負債の比率を計算します:

- E/V = $600,000 / $1,000,000 = 0.6

- D/V = $400,000 / $1,000,000 = 0.4


最後に、WACCの公式に値を代入します:

WACC = (E/V) * Re + (D/V) * Rd * (1 - Tc)

WACC = (0.6 * 9%) + (0.4 * 6% * (1 - 0.3))

WACC = 5.4% + 1.68% = 7.08%


この場合、企業の加重平均資本コストは7.08%となります。新規プロジェクトや投資が正当化されるためには、期待収益率がこのWACCを上回る必要があります。


WACCの重要性


1.投資判断:
WACCはハードルレートとして使用され、投資判断を行う際の指標となります。潜在的なプロジェクトを評価する際、企業はプロジェクトの期待収益率をWACCと比較します。期待収益率がWACCを上回る場合、そのプロジェクトは実行可能と見なされます。

2.企業評価:
WACCは、DCFモデルのような評価モデルで、将来キャッシュフローを現在価値に割引する際に使用されます。WACCを割引率として使用することで、企業は投資や事業の本質的な価値を計算できます。

3.リスク評価:
WACCは、投資家がリスクに対する補償として求める最低収益率を表します。低いWACCは、企業の資本コストが低いことを意味し、比較的リスクが低いことを示します。一方、高いWACCは、投資家が高いリスクに対してより高い収益を要求していることを示します。


WACCに影響を与える要因


1.資本構成:

企業が負債と資本をどのように利用しているかによって、WACCが変動します。一般的に、負債は税制上のメリットがあるため資本より安価ですが、負債を過剰に使用すると財務リスクが増加します。


2.市場環境:

金利の変動や投資家の期待は、負債と資本のコストに影響を与えます。例えば、市場金利が上昇すると、負債コストも増加します。


3.企業固有のリスク:

企業の事業リスクや運営の安定性も、資本と負債のコストに影響します。リスクが高い企業ほど、投資家の期待収益率が高くなり、WACCも上昇します。


結論


加重平均資本コスト(WACC)は、企業が資金を調達する際のコストや、投資判断を理解するための重要な財務概念です。WACCは、企業が負債および株主を満足させるために必要な最低収益率を示します。WACCを計算することで、企業はプロジェクトの財務的な妥当性を評価し、資本構成を効果的に管理することができます。

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