財務モデリングの教科書
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今回は、PEファンドが最もよく活用する投資手法の一つである、LBO、レバレッジド・バイアウトについて学んでいきます。レバレッジド・バイアウトとは、特定の企業を買収する際、その企業のキャッシュフローや資産、持分などを担保にして、買収金額の大部分を、借入で賄う投資手法のことを意味します。この借入金の割合は通常、買収総額の50%から、最大80%に達することがあります。つまり、Target企業の実質的なオーナーとなる投資家は、買収金額全体のうち、わずか20%から50%程度を自己資金として投資するだけで済むのです。このため、この手法で買収が完了すると、Target企業の負債比率は大幅に増加し、それに伴い、支払利息も急増する構造となります。
では、なぜわざわざこのような複雑な手法で投資するのでしょうか?通常、このLBOのような手法は、特に投資対象の規模が非常に大きい場合によく使われます。例えば、前回の講義でみたDellのように、Target企業があまりにも大きいと、PEファンドが全ての買収資金を負担することは困難です。ですので、このような手法で投資することで、PEファンドは一つの企業だけでなく、複数のTarget企業に分散投資を行う、といったメリットも得られます。そのため、LBOは上場企業や非上場企業の買収だけでなく、特定の事業部門や、資産を取得する際にも活用されます。また、エネルギーインフラ事業や不動産プロジェクトのように、非常に大きな資金を必要とする分野でも、LBOと似た構造がよく使われます。従って、エネルギーやインフラ、不動産分野におけるモデリングに携わる方々にとっても、LBOのモデリング手法を学ぶことは非常に役立つと思います。
再びLBOの話に戻ります。先ほど述べたように、LBOのメリットは少額の自己資金で大規模なTarget企業に投資できることです。しかし、LBO投資の最大の魅力は、なんといってもレバレッジ効果を活用した、非常に高い収益率です。では、LBO投資がどのような仕組みで高い収益を生み出すのでしょうか?
LBOを通じて収益を得る仕組みは、不動産投資と非常によく似ています。例えば、東京に、2億円の物件があると仮定しましょう。実際に家を購入した経験のある方ならよくわかると思いますが、この2億円の物件を現金で全額支払って購入する人は非常に少ないでしょう。当然、ほとんどの購入者が銀行から大部分の資金を借り入れ、つまりレバレッジを活用して物件を購入します。このレバレッジを利用することで、特に東京の不動産価格が上昇すると仮定した場合、非常に高い収益率を得ることが可能となります。
具体例として、2億円の物件をレバレッジを使って購入した場合と、使わなかった場合の収益率の違いを見てみましょう。まず、レバレッジを使わずに、2億円の物件を、全額自己資金で購入した場合を考えます。5年後、その物件の価格が2倍になり、4億円になったとしましょう。この場合、得られる収益は2億円で、収益率は100%となります。これでも十分、素晴らしい収益率ですね。
しかし、次は、レバレッジを活用して、2億円の物件を、1億円の担保ローンで購入した場合を考えてみましょう。同様に、5年後、その物件の価格が2倍の、4億円になったとします。この状態でその物件を売却し、借入金の1億円を返済した場合、残る金額は3億円となります。このケースでは、自己資金1億円を投資して、3億円を得たことになりますね。収益自体はレバレッジなしの場合と同じ2億円ですが、今回は、1億円の自己資金で2億円の収益を得たため、収益率には大きな差があります。投資家によっては、同じ金額で物件を2軒購入し、合計で4億円の収益を得ることも可能だったでしょう。
これがまさにLBOの最も重要なポイントです。レバレッジを活用することで、資産価値が上昇した際に、より大きな収益を得られるという構造です。しかしながら、これはあくまでも資産価値が上昇することを前提としています。もし、資産価値があまり成長しなかったり、逆に下落してしまったりした場合には、レバレッジの影響で損失もさらに拡大してしまう可能性があります。そのため、LBOを利用した投資方法には、常に高いリスクも伴うことを理解しておいてください。