これからの20時間:財務モデリングをどうするのか
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ここからは、投資意思決定のプロセスについて詳しく見ていきましょう。前回説明した通り、投資意思決定をすることが私たちの最終目標です。しかし、投資意思決定は簡単にできるものではありません。投資意思決定の前段階には、通常、Investment Memoやアナリストレポート、IR資料などの資料が意思決定をサポートします。これらはPowerPoint形式やWord形式の場合もあります。
いずれにせよ、通常これらの資料には最終的に企業価値評価に関する内容が含まれます。企業価値評価には、DCFやMultipleを用いたバリュエーション、LBO分析など様々な方法があります。これらを通じて適正株価や適正企業価値を算出し、投資すべきかどうかの結論を出します。しかし、企業価値評価は簡単にできるものではありません。一般的に、ほとんどの企業価値評価方法の前段階には、企業の財務予測が必要です。財務予測をするには、将来の売上、費用、キャッシュ、財務状況などが事前に予測されていなければ評価は難しいため、伴うべき重要なプロセスです。
また、企業の将来の財務予測を行う際には、たとえば5年後の売上を予測する場合、過去の分析が基盤となります。これを改めて整理すると、過去の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書という3つの過去dataを徹底的に分析し、それを基に予測を行います。また、予測データを基に企業価値評価を行い、見やすい資料にまとめ投資意思決定を行います。M&AのDealのような大規模な投資意思決定ほど、こうしたプロセスを深く進め、小規模な投資意思決定では簡略化することもあります。
私たちが定量的な評価を通じて適切な投資意思決定を行うためには、このプロセスを踏む必要があります。そのため、当講座のカリキュラムも、このプロセスを学ぶことがメインとなります。101講座では、過去の財務諸表を分析し、予測するところまで学びます。その後、201講座でバリュエーション、すなわち企業価値評価の基礎を学び、LBOモデリングに進みます。そして最後にPowerpoint Essential講座では、これらの内容をPowerPointにきれいにまとめる方法を学ぶ講座となっています。
今の101講座では過去の財務指標を分析し、予測するところまで学びます。この分野で何が重要かといえば、やはり分析を行うためには会計知識がある程度必要です。そのため、この講座の理論部分では、会計やFinancial Statementなどの指標間の関連性を多く扱います。ちなみに、講座の前半では会計知識が重要で、後半の財務予測ではLogic、すなわち他人を納得させるための論理を構築することが非常に重要です。バリュエーションに関しては財務管理の知識が重要です。Corporate Financeの知識があると、バリュエーションでスキルを発揮しやすいでしょう。そして、PowerPointのスライド作成においては、美的センスやStory-Tellingのスキルがあると有利です。最終的にこれらのプロセス全体をうまく進めるためには、ExcelやPowerPointといったツールを迅速に使いこなせることが重要です。ツールの未熟さが業務の足を引っ張らないように、十分に準備しておきましょう。
繰り返しになりますが、101講義では損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つの財務諸表を予測します。これを予測する手法を一般的に「Three Statement Modelling」と呼びます。最終的に、このThree Statement Modellingがあれば企業価値評価などの作業がスムーズに進められます。もしModelling Testを控えている方がいれば、Modelling Testの内容の約50%はThree Statement Modellingに関するものですので、必ず完璧に習得しておく必要があります。
では、簡単にThree Statementを見てみましょう。投資銀行やPEファンドの面接でよく聞かれる質問を一つご紹介します。「Three Statementの中で最も重要な項目をひとつ選んでください」。売上高を選ぶ方もいれば、資産やLiabilityを選ぶ方も、キャッシュフローを選ぶ方もいます。皆さんはどれが一番重要だと思いますか?一旦、考えてみてください。対面の講義でこの質問をすると、様々な回答が出ます。統計的に最も多い回答はキャッシュフローや営業利益でした。私自身も、個人的には営業利益を非常に重視しています。なぜなら、営業利益はDCF Valuationの出発点であり、またMultipleを使ったValuationにも大きな影響を与えるからです。しかし、それが必ずしも正解とは限りません。企業や状況によって、重要な指標は異なる場合が当然あります。
しかし、Financial Modellingや企業価値評価の観点から最も重要なものをひとつ挙げるとすれば、圧倒的に売上高です。実務で経験してみれば実感することですが、この図のRevenue以外の2番と3番の項目を予測する際に、Revenueを基にすることが非常に多いのです。たとえば、マーケティング費用を予測する際に「売上が今後2~3倍になるから、マーケティング費用も2~3倍になるだろう」といったようにLogicを構築することがよくあります。マーケティング費用の予測のように、Revenueに連動して数値が決まる部分が非常に多いため、この多くの項目の中でRevenueと関連付けられる項目がかなりあります。
そのため、私たちはRevenue、つまり「Top-Line」の予測を非常に重視しています。特に、大規模なM&AのDealを行う場合、1番のRevenueのみを外部委託することもあります。誰に委託するでしょうか?それはMcKinseyやBain、BCGといった戦略コンサルティングファームです。彼らにRevenue予測を委託し、約3~4週間かけてCommercial Due Diligenceを行います。コンサルタントがビジネス分析に優れているため、1か月間、売上高だけを深く分析するのです。その結果、長いときは1,000~3,000行のModellingにも及ぶことがありますが、予測したのは売上高のみということもあります。それだけ売上予測は企業価値評価において重要な要素です。
次に重要なのはこの「2番の領域」で、最後の「3番の領域」は比較的重要度が低いといえるでしょう。そのため、対面の講義でも初回はRevenueだけを取り扱います。次の講義では2番の領域、3回目の講義で残りの領域をすべて予測するという流れで進めています。
また、将来の予測は何年分を行うかについて気になる方もいるかと思いますが、基本的には5年分の予測を行います。詳細は後ほど説明しますが、状況に応じて予測期間は変わることがあります。たとえば、スタートアップをValuation・予測するとしましょう、Teslaでも、5年先の予測だけでは将来に対する疑問が解消されないことがあります。場合によっては10年先や20年先が気になる場合もあります。このようなStart-Upでは、予測期間が非常に長くなることもあります。逆に、1年だけ投資してすぐに売却する計画や、成長が停滞し1〜2年後も変わらないと判断される場合もあります。この場合、Modellingの予測期間が1~2年と非常に短くなることもあります。
最後に、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書はこのように複雑に絡み合っています。それぞれが相互に影響を与えますが、今の時点でそれらを全て理解する必要は全くありません。これらをひとつひとつ解きほぐし、Excelで実際に機能するように構築することが101講座のThree-Statement Modelingの最終目標です。理論講義でどのように解いていくか詳しく説明しますので、安心してください。
もし時間に余裕があれば、この図にある項目について「どのような項目で、どのような特徴があるか」を少し予習して次の授業に臨むと、さらに効果があると思います。以上で「Modellingとは何か、どこで使われるのか」、そして「投資意思決定のプロセスと売上予測の重要性」について説明しました。これでイントロは終わりにし、いよいよ本格的にModellingを始めていきましょう。
