財務モデリングの教科書
グローバルな専門講師から学べる Financial Modelling
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企業価値評価の方法論についてまず見ていきましょう。私がこれまで学んできたすべての書籍や講義では、企業価値評価を以下の3つの軸で説明しています。資産を基にアプローチするAsset-Based Approach、会社の収益を基にアプローチするIncome-Based Approach、市場での評価を基に進めるMarket-Based Approachです。
資産基盤のアプローチでは、例えばLiquidation Approach、つまり清算価値法では、現在企業が持っているすべての資産を市場で売却した場合、どれくらいの金額が得られるかを評価する方法です。帳簿にあるすべての資産を並べ、それぞれが市場でどの程度の金額を得られるかを仮定します。例えば、現金の場合、帳簿に100の金額があれば、100という全額を受け取れるでしょう。ですが、在庫資産の場合、帳簿に100があっても、急いで売却しなければならなければ、70しか得られないかもしれません。一方で、不動産資産の場合、帳簿に100と記載されていても、300を回収できる場合もあります。言葉だけで聞くと、非常に説得力のある方法に見えますが、実際にはこの方法はほとんど使用されません。なぜでしょうか?
その理由は、この方法が企業の現在の状態だけを基に評価するからです。現在、市場で売ればいくらになるか?を考えるため、未来の可能性をまったく反映できないという致命的な欠点があります。したがって、特にTeslaのように未来が有望な企業の場合、この方法で評価を行うと、価値が非常に低く出てしまうことになります。しかし、逆にこの手法が多く使われるのは、未来の見込みがない企業、つまり構造改革に入ったり、清算手続きを進めている企業の場合です。清算価値法については、後でさらに詳しく学びましょう。
収益基盤のアプローチの場合、やはりDCFが代表的ですね。そして、DCFの親にあたるDividend Discount Modelも無視することはできません。実務ではあまり使用されませんが、DCFを理解する上で、理論的には非常に意味のある価値評価方法です。いずれにしても、このような方法は、資産を基にアプローチする方法とは異なり、まず未来の収益を予測し、それを現在価値に割り引く方法です。そのため、企業の未来を反映できるという利点があります。ただし、アナリストの仮定に非常に敏感であるという欠点もあります。
市場基盤のアプローチ方法は、私たちがよく知っているPERやEV/EBITDAのようなマルチプルを活用する方法です。単純に現在の時価総額がその企業の適正な企業価値だと考える人もいれば、評価対象企業の過去のマルチプルの推移が今後も続き、未来でも似たような水準で形成されるだろうと考える人もいます。どちらも実際に使用されている手法です。
また、価値評価対象が市場内での類似企業とマルチプルが似ているべきだという論理から始まるのがTrading Comps、つまり類似会社比較法の論理です。そして、最近行われた似たようなM&A取引のマルチプルを活用する方法がTransaction Comps、つまり類似取引比較法です。
最後に、これらのすべての方法を組み合わせて使用するSOTP、Sum of the Partsという手法も存在します。後でさらに詳しく学びますが、例えばサムスン電子のような大きな企業を価値評価する場合、企業を分割して評価する方法です。半導体事業部はDCFを使用し、スマートフォンを製造するモバイル事業部は類似会社比較法を使用し、家電を製造する家電事業部は類似取引比較法を使用します。それぞれの事業部を個別に評価し、その後、全体をまとめて評価します。このように、規模が大きくて事業モデルが複雑な企業であるほど有用な手法です。
とにかく、数多くの価値評価方法が存在しますが、最終的に重要なのは、その価値評価方法を使ってどれだけ他人が説得できるかという点です。会社の業種、成長性、利益率などに応じて適切な価値評価方法を使用し、その際に説得力のある前提条件を使うことが非常に重要です。この201の授業では、最もよく使われる3つの企業価値評価方法である類似会社比較法、類似取引比較法、そしてDCF法について深く学ぶ予定です。また、今後の他の授業では、他の価値評価のアイデアも一緒に研究していきます。それでは、まず市場を基にしたコンプスの2種類、Trading CompsとTransaction Compsから始めてみましょうか?