DCFの長所・短所とDCF結果を決める4つの要素

Jan 12 / ザ・モデラズ
Write your awesome label here.

全文を表示

DCFのメリットとデメリットについて見ていきます。DCFはメリットが非常に多いValuation手法です。そのため、実務でも頻繁に使われています。DCFの最大のメリットは、キャッシュフローが存在する商品であれば、何でもDCF法を適用して価値評価ができるという点です。現在は株式を扱っていますが、前のパートで扱った債券や不動産だけでなく、様々なプロジェクトにも適用可能です。例えば、エネルギー会社が「どこに発電所を建設するか」を検討する場合や、製薬会社が「糖尿病の新薬を開発するべきか」を判断する場合にも使えます。プロジェクトや新薬パイプラインの価値を評価することができるのです。このように汎用性が非常に高いことがDCF Valuationの最大のメリットです。

DCFの2つ目のメリットは、徹底的に内在価値に基づく企業価値評価方法という点です。内在価値とは、例えばTeslaをValuationする際、Tesla自身がちゃんとした企業であれば、それで十分評価できるということです。以前学んだ「Trading Comps Valuation」では、Teslaがどれほど優れた企業であっても、市場で競合他社がうまくいっていなければ高い評価を得ることができませんでした。しかし、DCF Valuationでは、Teslaが自動車をしっかり売り、コストを抑え、良好なキャッシュフローを維持すれば、その結果として高い価値評価を得ることができます。これがその企業の「真の価値」とされ、「内在価値」と呼ばれます。英語では「Intrinsic Value」です。

3つ目のメリットは、1つ目のメリットと関連しますが、Comps Valuationでは難しい場合にも対応できます。例えば、ある企業が赤字を出している場合や、事業が開始されたばかりで実績があまりない場合、あるいはNet Incomeがボラティリティが高い場合でも問題なく使用でき、ほぼ全ての状況で適用可能です。このように、Compsでは難しい場合にも対応できる点がDCF Valuationのメリットです。

4つ目のメリットは、複数のシナリオを試すことができる点です。DCFはキャッシュフローを基に価値評価を行うため、様々な側面から分析することが可能です。例えば、新型コロナウイルスが深刻だった2、3年前には「コロナが1年以内に収束した場合、この企業のキャッシュフローはどうなるか?」「コロナが3年後に収束した場合、キャッシュフローはどうなるか?」といったModellingが、特にカジノやホテル、旅行会社などで多く行われていました。それぞれの仮定に基づき、異なるVersionの3 Statement Modelを作成し、DCFの結果を比較するのです。ですので、それらのModelの違いがコロナの終息による企業価値の実質的な変化になるのです。このような分析はDCFだからこそ可能です。

しかし、DCFにもデメリットがあります。まず、企業の内在価値は市場の変動性に影響を受けません。市場の状況を全く反映しない点はメリットでもあり、デメリットでもあります。もし、市場が停滞し投資がないといった雰囲気が悪い状況で、内在価値が高いからといって、企業価値が高く評価されたとしたら、果たしてそれが本当に正確な企業価値と言えるでしょうか?内在価値を重視する点は大きなメリットである一方、市場との乖離が生じる点はデメリットになる可能性もあります。

また、DCFの最大のデメリットは、仮定が多すぎるという点です。Free Cash Flowの予測、Terminal ValueやWACCなど、全てが仮定値です。この仮定値が0.5%や1%といったわずかな変動でも、企業価値が大きく変動する可能性があります。そのため、DCF Valuationを信用しない人も結構います。しかし、逆に言えば、私のようにModellingを行う立場からすれば、自分の望む評価額を出しやすいのがDCF Valuationの特徴です。もちろん、やってはいけないことですが、実際にはこうしたことがよく起こります。例えば、自分の顧客や自分自身がこの企業に強く投資したいと仮定します。しかし、現在の株価が1万円であるにもかかわらず、価値評価の結果が5千円しか出ない場合、DCFではどのようなことが可能でしょうか?仮定値を少し変更するだけで、評価額を1万円や2万円に引き上げることが可能です。Modellerの立場からすると、この点はメリットだと言えるかもしれません。しかし、基本的には変動に敏感な仮定が多いため、正確な価値評価が難しいというデメリットがあります。

もう一つのデメリットとして、人間の心理上、過度に楽観的な見通しをもとにTargetを過大評価してしまう状況が挙げられます。これも先ほど述べた内容に似たissueです。心理的な要因もあり、実務的には投資目的のため、どうしても楽観的な仮定を設定してしまうことがあります。その結果、企業価値が過大評価されることがあります。面接準備をしている方は、こうした話を頭に入れておいてください。「DCFのメリットとデメリットについて話してください」といった質問が出るかもしれません。もちろん、実際にモデリングを経験した後であれば、より現実的な回答ができるようになるでしょう。

4つ目のデメリットは、とても手間がかかるという点です。これまでModelling 101の授業を受けてきた方なら、かなり時間がかかり、考えることもたくさんあったと思います。複雑で仮定すべきことが多く、時間もかなりかかります。仮定値が多く、多くの分析が求められる分、多くのロジックが含まれることにはなりますが、効率的な方法ではありません。最後に、先ほど説明した「市場の影響を受けない」という点が4つ目のデメリットになります。

DCFは一般的にこのような形をしています。どの企業のModelでも、まずFree Cash Flowを計算する部分があります。その次に、先ほどの割引率や永久成長率などの様々な仮定値を入力する欄があります。そして、割引率を適用して作られた「現価係数」の欄が上部にあります。最後に、実際に価値評価が行われる部分があります。Enterprise ValueやEquity Valueを計算する欄です。実務で目にするモデルの多くはこのような形をしているでしょう。デザインや配置が多少異なるだけで、DCFは基本的にこれ以上シンプルになることも、複雑になることもないと思います。

Trading Compsと同様に、DCFにも4つのissueがあります。1つ目は「Free Cash Flowとは何か、それをどのように予測するのか?」です。Modelling 101の授業を受けた方は、Working Capitalの部分で簡単に学びましたが、ここでもう一度Free Cash Flowは何かについてみていきます。モデリングを行う方なら、Free Cash Flowの予測については既に行なってきましたので、その概念さえ理解すれば、考えるべき内容やExcelの作業は比較的少なく済ませます。2つ目のissueは、「永久成長率」というものを設定しなければならない点です。企業を価値評価する際、特定の期間までは「詳細に予測」し、その後は「大まかに予測」すると説明しました。この「大まかな予測」部分を、永久に成長する成長率として「Terminal Growth Rate」と呼びます。この成長率を何%にするかは、非常に重要な仮定であるため、こちらも重要な検討Factorになるでしょう。

3つ目は、2つのPartに分ける期間の設定です。先ほどは「5年」まで詳細に予測し、それ以降の期間を大まかに予測するとしました。しかし、5年を基準とする人もいれば、10年まで精密に予測してその後をTerminal Valueに設定する人、さらには20〜30年まで精密に予測する人もいます。この期間をどのように設定するかによって企業価値が変わる可能性があるため、これも検討が必要な部分です。そして、最後の4つ目は、WACCです。割引率を何%にするかについては多くの意見があります。割引率には、今まで見てきた「Cost of Debt」「Cost of Equity」「資本構成」などの仮定値が含まれており、それらによって割引率が大きく変わり、DCFの結果も大きく変動します。この4つのissueについて、これから詳しく扱っていきます。

1〜3番、つまりFree Cash Flow、永久成長率、そして予測期間については、それぞれの値が大きくなるほど企業価値も大きくなります。キャッシュフローが良くできていれば、当然企業価値も上がり、永久成長率を高く設定すれば同じく企業価値も高くなります。そして、Forecast Yearが長くなるほど、なぜ企業価値が上がるのかについて現時点では理解できないと思いますが、とにかく上がります。逆に、割引率については、値が大きくなるほど企業価値は低くなります。この4番目だけが逆の関係を持っていると理解していただければOKです。それでは、これから1から4番についてさらに詳しく学んでいきましょう。

財務モデリングの教科書

グローバルな専門講師から学べる Financial Modelling -
30ヵ国の受講生がオン・オフライン授業中
Write your awesome label here.
Created with