DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは?

Jan 12 / ザ・モデラズ
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ここまでの割引についての内容が理解できましたら、今回の内容も難しくないと思います。前回の債券をまた割引しますが、今回は債券に利息を付け、期間も少し長いです。株式より債券の方が分かりやすいので、まず債券から見ていきましょう。満期が3年残っている債券があるとします。この債券は毎年1,000万円の利息を支払い、満期時には1億円の元本を返済します。この債券を「今いくらを払って購入するか?」が質問です。今度も「今いくらを投資した場合、毎年いくらのリターンを得るか」といった価値評価の考え方ではないです。逆に、「将来にある金額を受け取れると決まっているが、それを現在の時点でいくらで購入するか」と考えるのです。同じ概念ですが、逆の観点で考えるということです。

この債券は、元本が1億円で毎年1,000万円の利息を支払うので、表面的な利率は10%ということになります。したがって、この債券に記載されている利率は10%です。しかし、投資家はこの債券がそれ以上の価値があると考えていると仮定します。経済状況が改善したり、企業の信用度が上がったりするなど、何らかの理由で投資家はこの債券を魅力的な商品だと捉えます。そのため、本来この債券は10%の利率で発行されましたが、潜在的投資家にとっては、6%のリターンでも満足できるといった状況になりました。

ここで割引を行います。投資家が6%でも満足するため、割引率は6%を使います。現時点で1年後に受け取る1,000万円の価値は、1+6%、つまり1.06で割引して943万円です。2年後の1,000万円の現在価値は、1.06の2乗で割引して890万円です。このように、時間が経つほど価値が落ちていきます。「1年後に1,000万円受け取るか?それとも、2年後に1,000万円受け取るか?」を考える時と同じです。3年後には元本の1億円も含めて受け取るため、分子には1.1億円が入り、それを1.06の3乗で割引します。計算すると、元本を含む金額の現在価値は923万円となります。さて、この債券をいくらで購入すべきでしょうか?本来、10%の利率で発行された債券の場合、1億円が適正価格です。しかし、投資家の要求収益率、すなわち割引率が6%に下がったため、投資家はこの債券を1億円より高い価格でも、喜んで購入します。具体的には、先ほどの3年分を合計した1億1,069万円を支払って購入する意思があるのです。

債券の価格はこのように評価されるため、投資家の要求収益率や割引率によって価格が変動します。普段、債券の価格変動はあまり意識されないかもしれませんが、株価が毎日変動するのと似たようなことです。債券の場合、株価よりはボラティリティが低いですが、取引市場があるため、当然価格も変動します。それでは、どのような条件によって変動するのでしょうか?一度発行されると、債券の利息と元本の支払スケジュールは変わりません。何によって変わるかというと、投資家の要求収益率によって変わります。

これに関して考えたいことがあります。経済学の講義やニュースで「金利が上がると債券価格が下がる」という話をよく耳にしますが、これはなぜでしょうか?通常、政策金利が上がると、債券投資家の要求収益率も共に上昇します。本来6%だったものが7%や8%と引き上げられ、それに伴い割引率も高くなります。そうすると、各キャッシュフローの現在価値も落ちてしまい、債券のバリュエーション、すなわち適正価格も下がるのです。ここまで完璧に理解していれば、DCFの理解も問題ないと思います。

ここで用語の整理をしておきます。これからは、これらの利息や元本を「将来のキャッシュフロー」または「将来に発生するキャッシュフロー」と呼びます。次に、この6%は「割引率」、英語では「Discount Rate」と呼ばれますが、以外にも債券の場合は「Cost of Debt」、株式の場合は「Cost of Equity」とも呼ばれます。最後に、割引して算出したこの値を「キャッシュフローの現在価値」、英語では「Present Value」と呼びます。

債券は比較的わかりやすかったですが、今度は株式の価値を考えてみましょう。先ほどの考え方を株式にはどのように適用できるのでしょうか?債券に利息があるなら、株式には配当がありますね?今回は配当がキャッシュフローになります。今回のケースでは、毎年1,000円の配当が支払われる株式があります。債券と原理は同じですが、違いは何でしょうか?株式には「満期」がないという点です。一度でもある企業の株主になれば、売却しない限り、かつ、その企業が存続する限りずっと配当を受け取ることができます。このように、株式と債券の最も大きい違いは満期の有無となります。

では、同じ方法で割引を行ってみましょう。今回は割引率が少し変わっています。先ほどは6%でしたが、今回は12%です。なぜ上がったのでしょうか?多くの人は、株式が債券よりリスクが高いと考えるため、投資家の要求収益率が高くなるのです。これが12%に上がった理由です。今回も配当1,000円を1+12%で割引、2年後には1.12の2乗で割引、3年後には3乗で割引、といった形で計算していきます。ご覧の通り、配当額はどんどん小さくなっていきます。この計算を続けていくと、いつかは0円になります。0円になるまでエクセルで計算を続け、全ての配当額を合計すると、833.3円という値が算出されます。つまり、この値がその株式の適正価格です。現在の株価が833.3円より低ければ、その株式を購入すべきで、833.3円より高ければ購入する必要はありません。また、逆に考えると、この投資家が833.3円でこの株式を購入し、永遠に保有する場合、12%のリターンが得られるとも言えます。この方法で、株式の価値を評価する方法が、有名な「Dividend Discount Model」、「配当割引モデル」と呼ばれるものとなります。おそらく、財務管理の授業で一度は聞いたことがあるかもしれませんが、このDDMは実務ではあまり活用されません。様々な理由がありますが、まず配当自体を支払わない企業も多く、配当を支払う場合でも、一定額の配当を維持する企業はそれほど多くないからです。そのため、登場してきた方法がDCFです。

DCFは、債券と株式を個別に価値評価するのではなく、企業全体を先に価値評価し、その後に債権者と株主の持分を分けるというアプローチを取ります。ここからは、債権者と株主の両方の立場から考える必要があります。まず、わかりやすいところから始めましょう。まず、割引率はどのように考えれば良いのでしょうか?先ほど、債券が6%、株式が12%でしたが、今回は割引率が9%です。この数字は、2つの割引率の平均です。企業全体を考える際には、債券と株式の両方を考慮するため、平均割引率を使用します。この平均割引率を何と呼びますか? これが有名な「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capital, WACC」です。「Cost of Equity」と「Cost of Debt」を平均したものです。もちろん、実務では単純な算術平均ではなく、資本構成に応じて加重平均を計算します。これからは、この割引率をWACCと呼びます。

次に重要なのは、キャッシュフローです。特徴的な点は、仮想のキャッシュフローを作るということです。もし、自分がこの企業に投資した場合、得られるであろうキャッシュフロー、それを「Free Cash Flow」、より正確には「Free Cash Flow to Firm」、もしくは「FCFF」と呼びます。つまり、この企業の営業・財務・投資活動を通じて発生するキャッシュフローを、投資家の観点から徹底的に計算するのです。営業活動で得られた収益から人件費、マーケティング費用、税金、投資費用などを差し引いて残ったキャッシュフローが投資家の取り分です。これらを見積もり、先ほどのWACCで割引し、先ほどのように合算します。ちなみに、WACCやFCFFについては、後ほどさらに詳しく説明します。

DCFと先ほどのDDMの違いは、配当は安定的で、仮に増配するとしても一定のpaceで予測可能である一方で、企業のキャッシュフローは予測が非常に難しいという点です。この違いがDDMとDCF Modelの大きな違いを生み出しています。このキャッシュフローというものは、Modelling 101の授業でこれまで学んできた通り、予測が非常に難しいものです。しかし、問題は、それに加え、企業が永続するという仮定を置くため、果てがない期間まで予測しなければならないという点です。もちろん、現実的にそれは不可能です。そこでDCFでは、あるアイデアを取り入れます。特定の時点までを詳細に一生懸命予測し、それ以降の期間については、大まかに予測するという方法です。その時点は5年、10年など様々で、例えば「特定の時点以降からは、毎年2%ずつ成長するだろう」といった大雑把な仮定を置いて予測します。

この「詳細に予測する範囲」を「予測期間の将来キャッシュフロー」、もしくは英語で「explicit cash flow」と呼びます。そして、それ以降の「大まかに予測する範囲」を「Terminal Value」と呼びます。つまり、DCF ValuationはPart 1とPart 2に分かれています。私たちが、Modelling 101の授業で3 Statement Modelを一生懸命作った理由は、詳細な予測が求められるPart 1を行うためでした。従って、この領域のFree Cash Flowを計算するための材料はすでに揃っています。これからはPart 2、すなわち「Terminal Value」をどのように計算するかという点を考えていきます。

最後に、投資銀行やPEファンド、ヘッジファンドなどの面接を準備している方々のために補足すると、Part 1に関する質問はそれほど多くないでしょう。おそらく、Part 2の領域で質問が集中すると思います。また、先ほど学んだ「割引率、Weighted Average Cost of Capital」や「Free Cash Flowとは何か」などの問題が多く出ると思います。たくさんの過去問題がDCF関連の問題ですので、これらの内容をしっかり整理しておくことが重要です。

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