Time Value of Money:貨幣の時間価値
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ここからは、DCF Valuationについて説明を始めていただきたいと思いいます。まず、DCFを理解するためには「貨幣の時間価値」という概念を明確にする必要があります。おそらく皆さんのほとんどが基本的な概念はご存じかと思いますので、詳しくは説明しませんが、Remindを兼ねてもう一度復習していきます。まずは、最も基本的な内容から見ていきましょう。
まず最初に、もし誰かがみなさんに1億円をあげると言ったら、今受け取る方が得でしょうか、それとも1年後に受け取る方が得でしょうか? 今受け取る方が間違いなく得です。この質問は、たとえ小学生に聞いたとしても、きっと「今すぐもらう」と簡単に答えるでしょう。
しかし、次の質問は先ほどより、少し難しくなると思います。「今1億円を受け取るか、それとも1年後に1.1億円を受け取るか?」という質問です。最近の金利が何%かは正確にはCatch-Upできていませんが、1年後に1.1億円を受け取るということは10%のリターンを得るという意味です。ある人は「10%のリターンならOK」と考えるでしょうし、他の人は「10%では満足できない」と考えるかもしれません。個人的には確実に受け取れるという保証さえあれば、10%のリターンで満足すると思います。銀行に預けたり、不動産を購入したりするよりも高いリターンを得られるからです。もちろん、これは人によって異なるでしょう。
最後の質問ですが、「今1億円を受け取るか、それとも1年後に1.2億円を受け取るか?」 です。今回は20%のリターンになりました。ただし、今回はリスクが高いバイオテック系のスタートアップへの投資が条件で、1年以内にその会社が倒産し、1.2億円を受け取れない可能性もあります。ここからは、人によって意見が大きく分かれるでしょう。実際には、その会社について十分に調べ、リスクをできる限り測定し「受け取れない可能性」をはっきりしようとするでしょう。
ここで私がお伝えしたいポイントをまとめると、まず1つ目は、お金の価値は常に時間とともに変化するということです。そのため、現金の現在価値や、これから見ていく「キャッシュフローの価値」は、現在の価値が最も高く、将来に行くほど価値が落ちていきます。2つ目は、貨幣の現在価値と将来価値の差は個人、つまり投資家によって異なるという点です。同じ投資対象でも、10%のリターンを求める人もいれば、15%を求める人もいます。最後に、同じ投資家であっても、投資対象のリスクによって要求収益率は異なるということです。一般的には、リスクが高いほど要求収益率が上がり、リスクが低いほど要求収益率が下がります。
これで「割引」という概念を少し理解できると思います。ただし、これまで私たちは現時点を基準に、現在の投資した金額を、将来にはいくら受け取れるかを考えてきましたが、「割引」という概念については、逆に考える必要があります。将来受け取れる金額が決まっていて、それが現在にはいくらの価値なのかを考えるということです。右の図を見ていただくと、Potterさんは、1年後に1億円を受け取ることになっています。この1億円は将来に受け取る現金なので、「将来価値」と呼ぶことにします。これを現在価値に換算するといくらになるでしょうか?Potterさんの要求収益率が10%であるため、1億円を1.1で割ります。そうするとPotterさんから見た、現時点での価値は9,090万円になります。この9,090万円を「現在価値」と呼びます。ここで、将来の価値を現在価値に変換する行為を「割引」と呼びます。この時、使用する分母の数値は「収益率」ではなく「割引率」と呼ぶことにします。つまり、収益率と割引率は同じ概念ですが、収益率の計算を逆に行うのが割引の概念だと理解してください。
次に2つの練習問題を考えてみましょう。最初の問題は、元本が1億円で、満期が2年残っている債券です。債券が何かはご存知ですよね? 債券とは保有していると、満期に額面に記載されている元本を受け取るものです。Potterさんは、この程度のリスクを持つ企業の債券であれば、毎年5%程度のリターンが必要だと思っています。それでは計算してみましょう。元本は1億円、満期は2年後です。つまり、この債券を保有すると、2年後に1億円を受け取ることができます。ここでは便宜上、利息はないものと仮定します。では、Potterさんはこの債券を今いくらで購入するでしょうか? 1億円を5%ずつ2回割り引きます。1.05の2乗分だけ割り引く、つまり割るのです。Potterさんにとっては、今ちょうど9,070万円を払って購入し、2年後に正確に1億円を受け取れば5%のリターンになります。したがって、Potterさんが見るこの債券の現在価値は9,070万円です。この価格より安ければ購入し、高ければ購入しないでしょう。
次に、二番です。債券だけでなく、不動産の場合も同様です。例えば、毎月10万円の家賃収入が得られる店舗があり、2年後には3,000万円で売却できるとします。不動産は債券よりリスクが少し高いため、Potterさんの要求収益率は少し上がり、10%程度のリターンが必要だと思っています。この場合、Potterさんは1年間で家賃収入をいくら得られるでしょうか?120万円です。2年後には120万円に加えて3,000万円を受け取ることになります。この問題では年間の家賃収入をすべて合算しています。本来は月ごとに分けて計算すべきですが、今回は一括で受け取ると仮定します。それでは最後に3,120万円をまとめて受け取るとして、それを割引してみましょう。この場合、1年分だけを割引くので、2乗などは使わず、1プラス0.1、すなわち1.1で割引きます。そして最後の3,120万円は1.1の2乗で割引きます。この2つを合計すると、2,688万円になります。Potterさんの要求収益率の10%を適用する場合、この不動産の価値は2,688万円です。この価格より安ければ購入し、高ければ購入しないでしょう。実際に、皆さんが住んでいる場所の価値も、家賃と要求収益率が分かれば簡単に計算できます。
このように、キャッシュフローが存在する商品であれば、債券でも不動産でも割引することができます。不動産の場合、前回学んだTrading CompsやTransaction Compsのように市場価格を利用してValuationを行うこともできます。しかし、実際に不動産屋さんに行って、オフィスビルのキャッシュフローをこのように予測してValuationを行っても、市場価格とほぼ一致する結果が得られます。現在の市場価格とある程度近い値が出るので、後で一度試しにやってみるのも面白い経験になると思います。このテーマについてはもっと話したいことがありますが、今回はIntro Sessionなのでここまでにして、次に進みたいと思います。